目次
大雪時のタイヤチェーン装着が義務化へ
去る2018年11月15日、こんなニュースが全国に流れました。
“国土交通省と警察庁は警報発令レベルの大雪が降った際、立ち往生が懸念される区間で、スタッドレスタイヤ車を含め全ての車両にタイヤチェーンの装着を今冬から義務付ける方針を明らかにした。(中略) 規制区域でチェーンを付けずに通行すると、道路法に基づいて6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科される。”
ようするに、「大雪時にタイヤチェーンを付けていないと違法になってしまう区間が出来る」ということ。上記のニュースの約1か月後には最初の13区間が発表され、以下の2区間に新潟県の道路も該当しました。
①上信越自動車道の長野県の信濃町インターチェンジと新潟県の新井パーキングエリアの間の25キロ
②国道7号線のいずれも新潟県村上市の大須戸と上大鳥の間の16キロ
でも「タイヤチェーンなんて付けられない…!」という方もきっと多いはず。というわけで、今さら聞けないタイヤチェーンの取り付け方法を“プロの中のプロ”に聞いてきました。
教えてくれたのはこの人
一般社団法人日本自動車連盟(JAPAN AUTOMOBILE FEDERATION:JAF)。
訪ねたのは「JAF(ジャフ)新潟支部」。もはや説明不要。言わずと知れた故障救援のプロ集団です。車生活の長い新潟県民であれば、『これはもうJAF(呼ぶしかない状況)だな…。』というセリフを絶望とともに吐いた経験が一度はあるはず。
教えてくれたのはこの人。
佐藤明人(さとう・あきひと)さん
ロードサービス隊新潟基地所属。JAF隊員歴10年。爽やかさとたくましさを兼ね備えたお手本のようなJAF隊員さんです。
佐藤さん「タイヤチェーンは”準備”が命です。しっかり練習しておけば、『いざ』という時にも迅速に対応できますよ」
タイヤチェーンの種類
鎖タイプ | 樹脂タイプ | 布タイプ |
取り付けの説明をする前に少しだけタイヤチェーンの種類についてご説明します。
タイヤチェーンには、大きく分けて「鎖タイプ」、「樹脂タイプ」、「布タイプ」の三種類があります。
今回レクチャーしてもらったのは、鎖タイプのタイヤチェーンの中でも古典的な「ハシゴ型チェーン」の使用方法です。近ごろは取り付けがより簡単な樹脂タイプが主流なのですが、比較的安価な鎖タイプも一定の人気があるのです。
佐藤さんによれば、このハシゴ型チェーンの仕組みと取り付け方法を学んでおけば、さまざまなタイプの取り付けにも対応できるんだとか。
急きょ使うことになったチェーンが鎖タイプだった、なんてケースも十分に考えられますからね。ここはしっかりと「基本」を学んでおきましょう!
作業の前に確認すること
作業を行う前に、必ず以下のことを確認しましょう。安全・快適に作業をするための必須事項ですよ。
1)タイヤチェーンはタイヤサイズに対応しているか?
タイヤチェーンは、取り付けるタイヤのタイヤ幅、扁平率、リム径に応じてさまざまな種類がラインアップされています。お使いのタイヤのサイズに適合したものを購入しましょう。
2)作業場所に安全が確保されているか?
作業中は周囲への警戒がおろそかになりがち。SA・PAやチェーン脱着所などの屋外施設はもちろん、自宅の駐車場などで作業をする時でも十分なスペースを確保しましょう。
3)作業に必要な道具はそろっているか?
特に屋外では道具の有無が作業効率を大きく左右します。以下のものを準備しておきましょう。
・ 手袋・・・雪や土、チェーンオイルなどで手が汚れるのを防ぎます。防水タイプがベター。
・ スコップ・・・屋外での作業時にタイヤ周辺の障害物を除去できます。金属タイプがベター。
・ 新聞紙・・・屋外での作業時、地面に着いた手や膝を水や汚れから守ります。
・ 懐中電灯・・・夜間の作業には必須。頭部に装着できるタイプがオススメ。
手順1. 道具の確認と配置
まず最初にやるべきことは道具の確認と配置です。
「まずは説明書に書かれている道具がすべてそろっているかどうかを確認しましょう。問題なければ説明書にしたがってチェーンを地面に広げ、各所のねじれをとりながらきれいに配置します」
「チェーンには必ず“表と裏”がありますので、これも忘れずにチェックします。かぎ爪状になった継ぎ目を内向き(タイヤ面向き)に装着してしまうとタイヤやホイールを痛めてしまう原因になりますので、かぎ爪は上へ向けた状態で地面に配置しましょう」
手順2. タイヤの向きを変える・ホイールキャップを外す
「停車したままハンドルを大きく右に切ります(右前輪の場合)。こうすることでタイヤの多くの部分をタイヤハウスから露出させることができ、作業が格段に進めやすくなります。また、タイヤチェーンがホイールキャップを傷つけてしまうので、チェーン装着時はホイールキャップを外しましょう」
手順3. タイヤにチェーンをかける
「地面に置いたままの形を保ちながらチェーンをゆっくりと持ち上げ、タイヤ上部にチェーンを覆います。」
(お寿司のシャリにネタを乗せる感じ!)
手順4. チェーンの連結箇所を確認する
※タイヤの全体像がよく確認できるよう、ここからはタイヤ単体を使って説明してもらいます。
ハシゴ型チェーンの連結部分は①タイヤ内側(内側フックで連結) ②タイヤ外側 (外側フックで連結)の2か所。これから連結する箇所をしっかりと確認し、作業がしやすいように配置します。
手順5. タイヤ内側のチェーンを連結させる
タイヤ内側にあるチェーンの端と端(連結部)を引き寄せ、チェーンの「あまり」が出なくなる位置で連結します。
※実車では作業をタイヤハウス内部(車体の下)で行わなければいけないため、連携部同士を引き寄せるのはけっこうむずかしいのです!写真では付属品の金属アームを使用していますが、もしもキットの中になければヒモなどで代用してもいいでしょう。
手順6. チェーンのかかり具合のムラをなくす
内側のチェーンが連結できたらタイヤ全体にバランスよく、ムラなくチェーンがかかっている状態になるよう調節します。これまでの作業でチェーン全体がタイヤハウスの内部(車体側)に偏ってしまいがちですので、手前(車外側)に、引き絞るようにチェーンをひっぱり、チェーンのかかり具合のムラをなくします。
手順7. タイヤ外側のチェーンを連結させる
タイヤにバランスよくチェーンをかけることができたら、タイヤ外側にあるチェーンの端と端(連結部)を引き寄せ、チェーンの「あまり」が出なくなる位置で連結します。
手順8. タイヤ外側に補助器具を取り付ける
タイヤチェーンの装着が完了したら、チェーンのテンション(張力)を保つための補助器具をタイヤ外側に取り付けます。(ゴムやスプリング形状の金属でできた“輪っか”状のものであることが多いようです)「バランスよくチェーンにテンションをかけるために、(フックの数が5つなら)なるべく正五角形を描くように装着します。付けたフックの対角線上に次のフックをかけていくのがコツです。」
手順9. あまったチェーンを針金で固定する
大抵のタイヤチェーンは、ある程度の範囲のタイヤサイズに対応できるようになっているため、装着後、タイヤチェーンに「あまり」が出るケースがあります。そんな時はあまった部分を針金で固定しましょう。「こうすることであまったチェーンが暴れてホイールやタイヤハウス内を傷つけることを予防できます」
装着完了!
これで装着完了です!美しい!
ちなみに、タイヤチェーン装着時に出せる上限速度の目安は、こういった鎖タイプであれば時速30km、樹脂タイプであれば時速50kmなんだそうです。チェーン装着時といえど、「ゆっくり走る」は鉄則なんですね。
タイヤチェーンの装着方法を学んだところで、あらためて佐藤さんにタイヤチェーン装着を含む雪道走行の極意をうかがいました。
現役JAF隊員が語る!タイヤチェーンと雪道走行に関する5つの極意
極意その① 車と道具のことを知る
「タイヤチェーンを取り付ける際には必ず説明書に目を通し、道具の仕組みとはたらきを理解しましょう。そうすることで作業がスムーズになりますし、道具のパフォーマンスを確実に引き出すことにもつながります。また、ホイールキャップやタイヤハウスといった車側の仕組みについても大まかに理解しておけば、作業がかなり楽になりますよ」
極意その② 空気圧とチェーンのメンテナンスはしっかりと
「タイヤ交換をした後には空気圧のチェックを確実に行いましょう。特にタイヤチェーン装着時に適切な空気圧に設定されていない場合は、これが原因でタイヤの劣化が早まり、バーストの原因になることも。また、タイヤチェーンは使用後に水分をしっかりと拭き取りましょう。こうすることでチェーンの劣化を遅らせることができます」
極意その③ チェーン装着は「予習」が必須
「予備知識・経験なしでタイヤチェーンをスムーズに装着できる人は少ないものです。タイヤチェーンを購入したら、かならず一度は平坦な乾燥路で実際に取り付けてみてください。こうすることで簡単な工程と難しい工程を確認することができ、ポイントとなる“コツ”が学べるのです」
極意その④ 安全な速度で走行する
「雪道走行でのトラブルを避けるための最も有効な対策方法は『速度を抑えること』です。車体をコントロールできる範囲の速度で走行する、というシンプルなことが最重要にして不変の鉄則なんです。タイヤチェーンはあくまでも補助器具である、ということを忘れないでください」
極意その⑤ 「確実な道」を選ぶ
除雪の行き届いていない、狭い道を選んでしまったことが原因で起こるトラブルは、実はかなり多いのです。たとえ混んでいても、道幅が広く、除雪が行き届いている道を選びましょう。
まとめ
今回の取材にあたり、私用車でタイヤチェーン装着の予行練習をしたのですが、チェーンがタイヤハウスの奥に落ち込んだ上、シャフトを巻き込んで盛大に絡まったまま取れなくなり、危うく取材前日にJAFさんをリアルに呼んでしまうところでした。
原因は「なんとかなるだろう」という甘い気持ちで作業に取りかかったこと。皮肉にも、翌日に佐藤さんからお聞きすることになる「準備」の大切さを痛感する出来事でした…。基本的なことではありますが、「準備(点検)しておく」「無理をしない」というのがカートラブルに対する一番の防衛策なんですね。
取材にご協力いただいたJAF新潟支部のみなさま、ありがとうございました!
【おまけ】樹脂タイプのタイヤチェーンの取り付け方法
冒頭で紹介した3つのタイプのタイヤチェーンのうちのひとつ、「樹脂タイプ」の装着方法も併せてご紹介。薄く、軽く、取り付けも比較的簡単です。鎖タイプと比較して少々割高ですが、自動車用品店でもこの樹脂タイプが売れ筋なんだとか。こちらもぜひ参考にしてください。
情報は掲載当時のものです。念のため電話で情報をお確かめになってからお出かけください。閉店店舗については、随時メンテナンスを行っています。間違いを通報する